アレハンドロ・バリエンテとカフェノル

アレハンドロ・バリエンテとカフェノル

ニュークロップが続々と到着して、フレッシュなコーヒーをリリースするシーズンとなりました。第一弾は〈LATIN AMERICA〉で提供を開始する中米・エルサルバドルのFinca La Anarquiaです。太平洋に面して、内陸部の西はグアテマラ、北から東側にかけてはホンジュラスというコーヒー大国に隣接するエルサルバドルは、パカマラ種発祥の産地として知られています。

今回リリースするアナルキア農園  (Finca La Anarquia) のプロデューサーであるアレハンドロ・バリエンテ (Alejandro Variente) は品質の高いコーヒーを生産するだけに留まらず、カーボンニュートラルな農園の運営など、持続可能なコーヒー生産のために積極的に取り組んでいます。

これまでOverview Coffeeではリジェネラティブ・オーガニック農法と、同認証を推進することをミッションに、コーヒー豆の選定基準としてはオーガニック認証や環境面でポジティブな評価のある同等の認証制度を取得していることを選定基準としてきました。

今回はオーガニック認証こそ取得していませんが、非常にユニークで先進的な取り組みをしている生産者として選定をするに至りました。今回の記事ではアレハンドロさんを中心とした農園の取り組みについて紹介をします。

 


アレハンドロ・バリエンテとカフェノル

エルサルバドル北部、サンタ・アナ県にあるメタパン地区は、グアテマラとホンジュラスに隣接するエリアです。アナルキア農園は、かつてかつて1800年代後半にフアン・ラモン・カルデロンによって創設された大農園エル・ピナル (Hacienda El Pinar) の一部として始まりました。現在はその小さな区画が独立し、地域社会と環境を尊重するという理念のもと、持続可能なコーヒーの生産が続けられています。

アレハンドロの祖先は1800年代からこの地でコーヒー生産に携わり、彼が4世代目にあたります。コマーシャルコーヒーの農園を引き継ぎ、1980年代に祖父が所有していた土地を地元の人々に譲ったことで周辺でもコーヒーの生産がはじまりました。アレハンドロ自身は一度メタパンを離れて、ニカラグアを中心にコーヒーの輸出会社で経験を積みました。2017年に地元に戻り輸出事業を中心とする会社のカフェノル (Cafe Nor) を開始しました。


カフェノルはアレハンドロが立ち上げた輸出業を中心とする会社です。常にトレーサビリティを保証し、高い品質基準を保つことをミッションに、生産者と消費者の間に長期的な関係を築く、持続可能で革新的な会社を目指しています。彼自身が農園主であり生産者であることがビジョンに反映されています。

具体的には下記を指針にしています。

・すべての国内および外国のステイクホルダーとの間で、社会的、環境的、経済的コミットメントを伴うハイエンドなネットワークを構築する。

・生産、市場、気候変動という新たな課題に対するレジリエンスを知り創造する。

・機械、設備、プロセス技術、エネルギー源、原材料副産物の再利用、環境意識の創出、社会的投影と地域経済の活性化の観点から、一次および二次コーヒー加工インフラを更新する。


カフェノルとしては1〜3時間程度の近隣生産者を中心に、商業化をサポートしています。精製施設を持たない小規模生産者からコーヒーチェリーを受け入れ、カフェノルの精製場で加工し出荷までを可能にしています。収穫初年となる2019年時点では50を超える生産者と取り組みをはじめて、年々関わる生産者とカフェノルとしての輸出量が増えています。

また、アレハンドロの革新性としてテクノロジーの導入によるトレーサビリティの機械化もあります。周辺の生産者では年間の収量が100kg程度の少量だけというケースもあり、そういった場合は他の生産者とミックスして商品化する必要がありますが、M-Cultivo社というアメリカのプラットフォームを活用することで誰が作ったものかトレーサビリティを確保しながらクオリティを上げることができました。M-Cultivoは生産管理から商取引、資金調達まで幅広く生産者をサポートしています。生産者にとってはクオリティを価格に結びつけることができる利点があります。


アナルキア農園とカーボンニュートラルな取組

アレハンドロが所有するアナルキア農園では、ブルボン、パカス、パカマラとティピカなどの品種を生産しています。農園は山の中にありますが隣接した場所に精製所を建てました。これによりコーヒーの運搬や輸出によって発生するCO2の排出量を削減する効果を生んでいます。

エネルギーの生産については100%自家消費型のソーラーパネルを設置して自宅と農園、そしてカフェノル事業で消費する電力を再生可能エネルギーでまかなっています。農園の条件に最適な植林をするほか、ソーラーパネルで日陰をつくり二酸化炭素固定能力の調査を進めています。

2021年にはカーボンニュートラルの証明書を取得し、エルサルバドルの地熱発電プロジェクトを支援しています。エルサルバドルでは経済成長に伴うエネルギー需要の増加に対して電力供給を改善すると同時に、再生可能エネルギーの割合を増やすことで、環境的、社会的、経済的持続可能性に貢献することです。プロジェクトの基本的な目標の1つは、環境への影響を最小限に抑えながら、資源、特に先住民資源を効率的に利用することです。


アナルキア農園はオーガニック認証などの認証制度こそ取得していないものの、農薬の投入量を減らし有機栽培に近づけています。生成過程で生まれる廃棄物を原料に変え、土壌を豊かにする肥料を生成しています。ここ数年は水資源の循環に取り組んでいて、精製過程で排出される有機物を含んだ水の成分を分解して液肥化しています。

アレハンドロを中心とした現地とのコミュニケーションから、このコーヒーの輸入を担っているアンバスの横山さんは2021年から毎年現地を訪問しています。「カーボンニュートラルな取り組みと認証の取得から、現在は農園内で生成する有機肥料の割合を増やしています。汚染水の液肥化もそうですが、限られた資源を循環させて未来を見据えながらできることを広げていってます。農園、エクスポーターとしての規模は小さいですが、他の生産国でもなかなかない先進的な取り組みです。」と語ります。

コーヒーは生産国の数が多く、当然ながら大陸やエリアによって精算方法は様々です。同じ中米でも、Overview Coffeeが長年取り扱っているホンジュラスの農協COMSAは組織や生産量として大きく、認証の取得においては規模の観点から先進的な取り組みが可能です。同時に、小規模生産者にとっては認証のハードルは高いものの、アレハンドロ同様に先進的な取り組みや、環境負荷低減の実践的な取り組みを行っている生産者がいることも事実です。今後、環境面を主軸に同様の取り組みをしている生産者を紹介できるよう、ソーシングの幅を広げていきたいと思います。

1杯のコーヒーの価値やユニークさを伝えて、環境への還元につなげられるようこれからも取り組みます。何より、生産国や生産者を想像しながら飲むコーヒーには味わい以上の価値があり、国や文化を超えた想いが宿るはずです。

 

LATIN AMERICA - El Salvador

生産者: Alejandro Variente
エリア:Metapan, El Salvador
品種:Pacas
精製方法:Honey Process
標高:1480 - 1600m
ローストレベル:中浅煎り

Tasting note:
ワッフルコーンをイメージさせる甘さ
ピオーネのような芳醇な赤ぶどうやハイビスカスのような香り