〈Guest writer〉 Momona Otsuka

〈Guest writer〉 Momona Otsuka

日本で初めて〈ゼロ・ウェイスト宣言〉をした自治体で知られる徳島県上勝町。人口は約1500人で、大部分が標高700m以上の山地に覆われ、棚田や段々畑など日本の原風景が残されています。上勝町はゴミ自体を出さない社会を目指し、ゴミ収集は行わず、住民自ら家庭での堆肥化や、ゴミステーションに持ち寄って45種類以上に分別し、リサイクル率は80%を超えています。

今回は、上勝町を象徴する事業〈上勝町ゼロ・ウェイストセンター〉で、Chief Environmental Officerとして〈HOTEL WHY〉の運営や、学校やイベントでの講演などを担当する大塚桃奈さんから、上勝町での暮らしについて寄稿いただきました。

大塚さんの視点から感じる上勝町やゼロ・ウェイストを、彼女らしい柔らかい文体でお楽しみください。

 

 

 

四国一小さな町といわれている徳島県・上勝町は、勝浦川上流域に位置し、1500にも満たない住民が沢沿いに暮らしている。日本で最も美しい村連合の1つとして選ばれている上勝町には、江戸時代からつづく樫原の棚田や、ブナの原生林が広がる高丸山、無形民俗文化財に選定された晩茶など、山の静けさのなかに脈々と受け継がれる人々と自然の営みが存在する。町にはスーパーもなければもちろんコンビニもないが、アナログでどこかノスタルジック、不便だけどちょうどいい、ゆるやかな時間が流れている。

3年前に大学を卒業したわたしは、ご縁とタイミングをきっかけに上勝町へ移り住み、現在はゼロ・ウェイストセンターと呼ばれる公共複合施設を運営している。わたしたちの仕事は施設の管理・運営を通じて、社会が直面してるごみ問題の解決と学びの機会の提供、そしてまちのなかに交流を育むこと。つまり、過疎が進むまちにワクワクする未来をつくっていくことである。

 

もともとわたしの興味はファッションにあった。高校3年生の夏にデザイナーを夢見てロンドンへファッション留学にいくなかで、自分自身がどのような服づくりをしたいのかを考え、はじめて1着の服が社会にもたらす様々なインパクトに思いを馳せるようになった。衣服が人や動物、自然環境を傷つけるパワーがあることを知り、服づくりは生活とともにあることを知った。その後進路を変え、大学生活を通じて異なる文化で学ぶチャンスをいただくなかで、私の興味は次第に「服」から「暮らし」、「コミュニティ」へ と広がり、「もの」に溢れた世界で新たに「もの」を作り続けることを問い直すようになった。

さまざまなキーワードに触れるようになり、大学生のときに日本ではじめて「ゼロ・ウェイスト宣言」を発表した上勝町と出会った。実際に羽田空港からバスを3つ乗り継いで行くと、廃棄食材や未利用食材を活用したブルワリーや自給自足の暮らし、住民のあたたかなおもてなしが山の景色の中に存在しており、わたし自身にとって「循環するつながり」を再考する時間があったのだった。

 

小さな上勝町が、大きなビジョンを掲げてこつこつと取り組んできた「ゼロ・ウェイスト」の取り組みは、時代とともに変わっていく社会や生活にひたむきに向き合ってきた住民の自治力によって続いてきたと言えるだろう。

上勝町では、野焼き場と小型焼却炉の相次ぐ閉鎖を迎えるなかで、未来の子どもたちに美しい自然を受けついでいくために、地域の中で処分ができない焼却ごみ・埋立ごみを減らしていく努力をしようと2003年に町を掲げて発表した。町の住民は、生ごみを各家庭でコンポスト、まだ使えるものはリユースの場である「くるくるショップ」へ、それ以外の物は町内に一か所しかない「ゴミステーション」へ持ち込み(一般的な収集サービスはない)、45通りに分別して資源回収するなど協力している。結果的に町内のごみの排出量は減少したうえ、リサイクル率は8割以上を達成した。

山間部に位置し、財源が乏しい小規模な自治体において、廃棄物処理には苦労や困難が伴ってきた。しかし、当時の町長や役場職員の地域への強いパッションが町を動かし、宣言後に立ちあがった「ゼロ・ウェイストアカデミー」が住民との柔らかなコミュニケーションを行いながらごみを出さない仕組みづくりや工夫を重ねてきたことによって、町内外で仲間を増え、結果的に町の新たな価値づくりに貢献した。

2020年には、上勝町ゼロ・ウェイストセンターという地域のあたらしい中間処理施設/交流拠点が完成した。疑問の形をした施設には「なぜごみを捨てるのか」という素朴な問いが込められており、従来のゴミステーションとくるくるショップに加え、ホテルや交流ホール、オフィススペースが併設されている。地域の廃材や古材、木材をリサーチするなかから施設のデザインは生まれている。地域の記憶とともに形づくられた空間で滞在をたのしみながら、これからの暮らしのあり方を考えるきっかけがゆっくりと育まれつつある。コロナ禍のオープン以降、少しずつではあるが、ホテルには国内外からゲストが訪れ、イベントが営まれ、町にあたらしい風景を紡ぎはじめている。

 

そもそもゼロ・ウェイストとは「ごみの発生抑制」を意味するが、わたし自身の言葉に置き換えると「見えない関係性に思いを馳せること」としている。「見えない関係」とは、もののサプライチェーンとごみ箱の行き先を指す。日々の生活の中で何気なく手にし、手放されるものが、果たしてどこからきて、どこへいくのか。ものがごみになる前にその関係性を問い紡ぎ直すことが、暮らしに愛着を育み、心地よく生きる手段になるのではないかと考える。

ゼロ・ウェイストの視点から暮らしを覗きながら、なるべく使い捨てをなくし、関係性がつづくものを想像/創造して、暮らしに取り入れ楽しみたい。ものを選ぶときは、直しやすいもの、自然に還るもの、知り合いが売っているもの、手作りしたもの、丁寧に作られたもの、古いものなど、長く大切にできるものを積極的にみつけることができたら、きっとこころも豊かになるはずだ。

上勝で暮らしていると、ひととひと、もの、自然が手の届く範囲でつながって暮らしが成り立っているということをよく実感する。そして町で暮らす住民も、そのつながりを楽しんでいるようにみえる。ゼロ・ウェイストも、そんな見えるつながりのなかで息づいてきた取り組みだといえるだろう。

 

プロフィール

Writer : 大塚桃奈(おおつか ももな)

2020年春大学卒業後、徳島県上勝町に移住し上勝町ゼロ・ウェイストセンターWHYのChief Environmental Officerに就任。「たいせつなことは日々のなかにある」という思いからまちでの暮らしと記憶をトレースするように、2020年秋からは「日本で最も美しい村連合」の季刊誌にエッセイを寄せている。すきな時間の過ごし方は、地域のひととのちいさな集い。今年は、築100年の古民家を集いの場に改装したいと計画中。

上勝町ゼロ・ウェイストセンター
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