Field work in Brazil | Fazendas Dutra

Field work in Brazil |  Fazendas Dutra

2026年6月22日から7月3日にかけて、ブラジルのミナスジェライス州にある3つの農園を訪問してきました。どの農園もリジェネラティブ農法を実践し、土壌の健康や生物多様性を重視した農業を営んでいます。

農園の規模や歴史、認証取得の有無はそれぞれ異なりますが、共通して感じたことはリジェネラティブ農法を通じて生産環境のレジリエンスを高めていくことと、その結果として長期的に収量の改善に取り組んでいるという目的意識です。

同時に、農法はあくまで手段であり「何のためにどこに向かうのか」という目的を明確にすることが重要で、個々の前提条件やマイルストンに合わせたアプローチをそれぞれの順序で実践しています。そういう意味で正解がなく、常に現在進行系でトライアンドエラーを繰り返している様子が伺えました。

今回は訪問した3農園それぞれのケースを順番にご紹介します。最初の記事ではブラジルで唯一リジェネラティブ・オーガニック認証(以下ROC)を取得し、大規模農園として運営しているFazendas Dutra(ドゥトラ農園)です。

ロサンゼルスからマイアミを経由してブラジル最大の都市サンパウロに着くと国内線に乗り換えて、この旅の拠点となるミナスジェライス州の州都ベロオリゾンテに到着しました。トランジットを含めると24時間以上経ち、アメリカからの渡航でも乗り換えの多さ故に距離を感じました。

ミナスジェライス州はブラジルのスペシャルティコーヒーを牽引する一大産地として知られていますが、その州都のベロオリゾンテはブラジルでは4番目に人口が多い都市です。日本語にすると「美しい地平線」を意味する都市名の名前の通り郊外の空港から市内に向かう途中の景色はなだらかな高原のような景色が続きます。

日本の高地とは違って地形自体が緩やかなので実感はありませんがベロオリゾンテ自体が標高800m以上あるので、日が暮れると涼しく過ごしやすい気候です。訪問した6月は収穫の最中で、南半球にあるブラジルは秋から冬前にあたる季節です。年中暑い国だと想像していたので、湿度が低く涼しいだけで心地よいです。

ベロオリゾンテ中心部のホテルで1泊して、翌朝早朝から最初の訪問先であるFazendas Dutraを目指します。今回ブラジルに来た理由としては、Fazendas Dutraを訪問することが一番の目的でした。

世界でも数少ないROCを取得した農園であるため、リジェネラティブ農法について学ぶことができることと、Fazendas Dutraのコーヒーはすでに入荷することが決まっていたことが背景にあります。この農園のインポーター(かつブラジル側のエクスポーター)であるReGENERA COFFEEのブラジル訪問に帯同する機会をいただきました。

ベロオリゾンテからFazendas Dutraがあるミナスジェライス州東部のカプティラは車で5時間ほどの距離にあります。ベロオリゾンテ中心部から1時間ほど車で走ると、段々と建物が少なくなり高原に広がる放牧地が増えていきます。

車の窓から緑色の放牧地を眺めていると、遠くの方には所々に白い斑点がみえます。それはどうやら牛や馬で、気持ちの良い日照りのもとでのびのびと過ごしていました。ブラジルは世界で5番目に広い国土を持っていることもあり、一次産業が経済を担っています。

目の前に広がる景色がそのまま説得力あるものとして映りますが、健康な土地活用という観点から「アニマルウェルフェア」を柱のひとつにしているROCとの相性が良さそうなことが伺えます。ブラジルは中南米の経済を牽引する立ち位置からも、リジェネラティブな農業の研究には国や大企業も力をいれていて、環境に良いという以上に生命線であるような印象を受けました。

Fazendas Dutraに到着すると創業家の親族であり、現場のマネージャーを勤めるペドロが迎え入れてくれました。到着して早々に、サンプルロースターやクオリティーコントロールをするオフィス棟の案内から始まり、すぐそばにある施設を順々に説明をしていただきました。機械乾燥機のほか、生豆をサイズごとに仕分ける選別機や不純物の除去機など、大型で高性能な機械が並んでいます。

すぐ横の敷地にはナチュラルプロセスで使うためのパティオ(コンクリートの地面)が広がり、その脇にはアフリカンベッド(風通しが良いネット型の乾燥台)が配置されています。訪問時にはちょうどパルプドナチュラルのコーヒーをパティオに広げていました。

機械乾燥機には農園内から出る倒木などの廃材を燃料に、精製で使う水は90%を再利用しています。また、太陽光発電は200%を越えて、使用しない分は電力会社に販売をしているようです。Fazendas Dutraでは土壌や栽培のみならず、事業のあらゆる工程で省エネルギー化しています。

Fazendas Dutraは1ha(1haあたりサッカーグラウンド1.4倍相当)からはじめたとても小さな農園でしたが、徐々に敷地面積を増やし現在では2100haという広大な土地でコーヒーを栽培しています。標高は最も高いところで1300m近くあり、オフィスがあるエリアからは車で30分以上離れています。この一帯がコーヒーを栽培していますが、なかでもFazendas Dutraは企業規模としても敷地面積も大きく、近隣に住む住民の雇用やインフラ整備に貢献しています。

エリアが広く急勾配な斜面が多いことから、Fazendas Dutraでは機械を使わずにすべて手作業で収穫しています。農園内を見学している最中も、車でも登るのが大変な急斜面を年配の女性ピッカー(収穫担当者)が荷物をもって歩いていました。収穫量次第ではあるものの、熟練のピッカーであれば朝7時から終日働いて一日あたり数万円の受け取りも可能なほどで、いかにハードな仕事であるかと同時に、この農園が人や地域を大切にしていることが伝わりました。

Fazendas Dutraの売上のうち70%近くは人件費の支払にまわると言っていましたが、それにより地域住民の生活の質や、教育機会の向上といった循環の源になっているようです。土壌だけではなく社会的公平性を重視するリジェネラティブ・オーガニックの思想を体現しています。

Fazendas Dutraのコーヒーはすべてがオーガニックで栽培されています。また、パルプは鶏糞と混ぜて肥料にし資源を循環させています。シェードツリーにはパパイヤやマンゴー、アボカドの木が植えられて混作をしていますが、ROCのガイドラインに則って実践しているというよりはコーヒー農園にとって必要なことをやっているという印象でした。

実際にオーガニックで生産している理由も、彼らにとってそれが自然な営みであり、通常運営の延長線上にリジェネラティブ・オーガニック認証を取得することができたということを言っています。ROCはゴールド、シルバー、ブロンズの三段階で評価をされています。現在はシルバーのカテゴリですが、運営方法のさらなる改善によりゴールドを目指しているようです。

リジェネラティブ・オーガニックを実践する利点として土壌の回復力が高まることだと、マネージャーのペドロは言います。これまでであれば雨季と乾季の差がはっきりしていましたが、特にここ10年ほどで収穫期にあたる乾季でも雨が降ることが珍しくなくなったようです。

収穫中に雨が降ることで乾燥プロセスに影響がでるほか、収穫前のチェリーが水分を吸収することで品質に悪影響を与えます。マクロな観点では収量の影響が国際的な価格変動に反映されるため、生産者としては不安定な状況が続きます。訪問する1週間前には集中的にヒョウがふったようで、その結果3000本ほどの木を伐採しなければいけなくなったようです。

ヒョウや雨のような予想外の天候への対策にはなりませんが、リジェネラティブ・オーガニック農法では土中に根が広がるため地表が崩れづらいというメリットがあります。また、カバークロップによって健全な水はけを生み、地表にも必要な保水をすることができます。Fazendas Dutraでは土壌の成分を研究機関によって調査し、適正な成分への改善をしているようです。

農園の規模が非常に大きく、近隣住民と密接な関わりがあるFazendas Dutraだからこそリジェネラティブ・オーガニック認証を取得できたという条件はあると思います。リジェネラティブ農法、それもオーガニックで行うことは費用面でも収量とのバランスでもとてもハードルが高いことは紛れもない事実です。

また、地域への還元として高い人件費を支払うことは農園の誇りであると同時に運営面では負担とも言えます。農園を訪問したことで「環境に良い」取り組みの背景が以前よりも理解できた今、どういう買い手でありたいか、どのような取り引きが公平なのか、考えることと取り組むべきことが一つ明確になりました。

Fazendas Dutraのコーヒーはこの秋にはリリースする予定です。間もなく瀬戸田の焙煎所に到着して、ローストプロファイルが整い次第お届けすることができます。訪問した農園のコーヒーをリリースすることは特別な気持ちであり、美味しさだけでなく背景を伝えていくことにも責任を感じます。そう言うと大げさですが、知ってもらいたいことが増え、コーヒーの魅力を分かち合えると嬉しいです。この記事を読んでくださった皆さんも、楽しみに待っていただければ何よりです。

Text & Photo : Tomoya Yazak