〈あすなろファーミング〉インタビュー
Overview Coffeeはコーヒーの栽培方法を見つめ直し、土壌の再生と気候変動の問題解決へ寄与することをミッションに発足したスペシャルティコーヒーロースターです。品質が高く、環境負荷の低い素材の選定を重視していると同時に、焙煎所で使用する資材の見直しや、店舗運営で生じるゴミの削減、環境に配慮された素材の選定も大切にしています。
今回は、〈Overview Coffee Nihionbashi〉やパートナーの〈Massif〉で使用しているミルクを生産している〈あすなろファーミング〉の代表・村上悦啓氏に、あすなろファーミングの特徴や、ミルクの生産、そして土壌の作り方についてお話を伺いました。
コーヒーショップにおいて、ミルクはカフェラテなどの味わいを構築するうえで重要な素材です。また、使用量が多い素材なので環境負荷が低く生産されていることも大切な選定基準となります。Overview Coffeeの味わいと、理念を体現するうえで重要なパートナーのインタビューをお届けします。
Photo : Overview Coffee
「土づくり、草づくり、牛づくり」 理念と実践
- Overview Coffee(以下、OVC) あすなろファーミングができたきっかけと、現在までの過程をお聞かせください。
- あすなろファーミング 村上氏(以下、村上)〈あすなろファーミング〉は僕の父が1991年にはじめ、今年で33年目になりました。牧場自体は父が3代目で現在は兄が4代目として牧場を継いでいます。私が加工品を扱うあすなろファーミングで、兄が牧場経営をするかたちで兄弟で分担しています。
あすなろファーミングは父が40代前半のときにはじめたんですが、きっかけとしては30代前半に行ったヨーロッパ研修だったと聞いています。当時はまだ今ほど六次化ということは言われていませんでしたが、父と交流のあった方が「今後は酪農家が消費者に物を届ける時代が来る」と言っていたようです。
ヨーロッパは乳製品を生産者が自ら加工して販売してるところが多く、研修先としてドイツのドッテンホルダーホフというところで有機農業で加工品をやっている生産者さんを訪ねた時に飲んだ牛乳や乳製品、いろんなものがすごく美味しかった、と。元々うちの牧場は放牧とかもやっていなくて、体格評価とか乳量の評価をする品評会によく牛をだしている牧場でした。ヨーロッパに行って有機の酪農でできたものを食べたらやっぱり全然違って、そこから牧場も少しずつ転換していきました。
化学肥料を使わないようなやり方を、本当に少しずつ始めていって徐々に加工の方もやるようになっていきました。最初は認証を取ってはいませんでしたが、化学肥料を少しずつやめていって、有機の牧草を食べるような状態に少しずつ変わっていきました。そういったきっかけで、このあすなろファーミングができました。
あすなろファーミング 村上悦啓氏
- OVC 酪農と加工は分業するケースが多いですか?
- 村上 元々六次化でやってるところは大体平行している方が多いと思いますが、今はうちのように兄弟で分担してるところも増えてきた印象です。あとはどれだけの量を加工するかにもよるんですが、たくさん加工しないのであれば酪農と加工の両方をされている方もいます。
- OVC 味わいの特徴や飼育についてお聞かせください。
- 村上 僕らは牧場での管理をすごく良くしていただいてるので、 加工の方では極力いい生乳を良いまま出せるように、あまり加えたくないっていうのが1番にあります。シンプルな牛乳であったり、生クリーム、バター、それからチーズで、極力添加物を使わず 商品化していくことを心がけてます。牧場での牛の管理だったり、例えばアニマルウェルフェアを考えた放牧など、そういうところで自分たちだからできることを大切にしています。僕らは本当に生乳の良さを出せるような商品づくりをできれば良いと思っています。
放牧ですと夏のミルクと冬のミルクで味わいが変わってくるんです。これからはじまる夏の放牧では青草を食べるようになるので、乳脂肪分がちょっと下がるんですよ。固形分もちょっと下がります。青草の風味が牛乳に結構現れてきて、脂肪分もちょっと黄色くなります。
夏はすっきりした感じの味わいのミルクになるんですが、逆に冬になると放牧が終了して、今度は夏に収穫した牧草を食べるようになります。そうすると濃厚な感じの味わいのミルクになるんですよね。その時は脂肪分が高くなって、固形分も上がってきて、濃厚さが出るミルクになるんですが、それが放牧の良さだと思います。
北海道の酪農は広大な大地に牛がたくさん放されているイメージがあると思うんですが、そういうところは道内でもあまり多くはないです。基本、大きな牛舎で育てられてミルクを絞ってっていうような形なので、アニマルウェルフェアの点でも、味わいの点でも、牛にストレスをかけないような 飼育をされたミルクには違いが出てくるんじゃないかと思いますね。
Photo : あすなろファーミング提供
- OVC どんなスケジュールで飼育をしているんでしょうか?
- 村上 牧場の方は基本的にゴールデンウィーク明けから放牧がはじまって、毎日草を食べて、 ミルクを絞って、で、また外に出てというリズムを繰り返します。それが大体11月まで続きます。
夏ですと、だいたい朝は5時半くらいから搾乳がスタートして、 終わった後は今度は放牧地に行って食べたり寝たりして、だいたい3時から4時くらいまで放牧地で過ごします。 食べると乳が張ってくるので牛たちも絞ってほしくなるので牛舎に集まってるんですよ。夕方に搾乳が終わったらまた放牧地に出て、また朝戻ってきて搾乳するという流れです。
冬は雪が降るので、今度は牛舎のすぐ横にパドックと言われるちょっと広いスペースがありまして、そこで寝たり食べたり自由にできるような場所を作ってあげます。日中はパドックに出て自由に生活して、搾乳の時になると牛舎の中に入ります。夜は寒いので牛舎の中で過ごすような形で、冬はそういうふうなリズムになりますね。
絞った生乳自体は毎朝加工所に運びます。毎日牛乳は止まらないので毎朝運んで、弊社の場合は牛乳製造が朝早く3時半ぐらいからはじまります。昨晩と今朝に搾乳したものに関しては朝に運んで、大体当日から長くても2日生乳のまま保管されます。
- OVC あすなろファーミングの「土づくり、草づくり、牛づくり」と今後の展望についてお聞かせください。
牧場をみている兄が掲げる理念としているんですが、やっぱり土づくりが大切で、美味しい草ができれば牛がよく食べて美味しいミルクになるので、その原点は土なんです。おいしい牧草を作るためには、土のバランスがすごく大事で、 微生物や色々な栄養価のバランスをすごく気にしています。
野菜とかもそうですが、良い土ができれば美味しいものがたくさん実ります。やっぱり土がすごく大事なんです。僕ら酪農も一緒で、いい土があれば美味しい牧草ができて、美味しい牧草を食べれば牛たちも美味しいミルクを出してくれるので、土づくりが1番土台の部分ですね。なので、基本的には牛から出た粉尿とかも全て循環させています。今、牧草地や放牧地は有機JASの認証も取っているので、使えるものの中で土のバランスを整えています。
牧場は循環型でやっていますが、僕たちとして最終的にはオーガニック認証を取得した牛乳だったり製品づくりをしていきたいと思っています。現在、牧草や牧草地は有機JAS認証を取得していますが、牛乳を有機にするには餌となる小麦や飼料米、ビートパルプなどもオーガニックじゃなければいけません。牧場と相談しながらになりますが、オーガニックの牛乳や、あとはヨーロッパでよく作られているハードタイプのチーズも作っていけたらと考えています。
Photo : あすなろファーミング提供
あすなろファーミング
日高山脈の麓、十勝清水町で平成2年9月に有限会社あすなろファーミングを設立しました。 特に土作り、草作り、牛作りをモットーに30年以上、農薬や化学肥料を一切使わないリサイクル農業を進めています。牛にはストレスのかからない放牧を行い、飼料も国内飼料で遺伝子組み換え作物を使わない自然生態系の管理をしています。あすなろ牛乳はノンホモ、低温殺菌で63℃ 30分で処理しています。特に春、夏、秋、冬の季節を感じる牛乳です。この牛乳でヨーグルト、バター、ソフトクリームなどの乳製品を作っています。
有限会社あすなろファーミング
北海道上川郡清水町清水第4線65番地
https://asunaro-farming.co.jp/